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LCT640TS インタビュー

2枚のダイアフラムを装備し1台のみでステレオレコーディング、M/Sレコーディングそして、本体に付属するプラグイン、Polarizerを使用することでマイクの指向性をレコーディング「後」に変更までが可能。そして、通常の使用方法でも最高の質感とサウンドを誇るLCT 640 TSを様々な使い方でアーティストのパフォーマンスを抑えたレポートをお届けします。

Feb 16, 2018 5 min read

LEWITT Content Team
Enthusiasts at work

五十嵐 建二「Lewittは最初から良い印象を持っていたけど、LCT 640 TSはそこに”マイクの ”新しい可能性” を感じた」

Introduction

五十嵐 建二「Lewittは最初から良い印象を持っていたけど、LCT 640 TSはそこに”マイクの ”新しい可能性” を感じた」

 

青谷 明日香「1本だけでこんなことができるなら、自分でも色々と試してみたくなる」

 

Lewittから「ダイアフラムを表裏両面に『2枚』装備したモデルが発表される」と初めて聞かされたとき、私たちは大いに戸惑った。そんなマイクはこれまで存在しなかったからだ。

さらにそのマイクは、2枚のダイアフラムを生かして「録音『後』に指向性のパターンを連続的に変更することもできる」という。ますます言葉の説明だけでは、どんなマイクなのか訳が分からない。万人受けするような機能優先のものなのか、それともLewittらしい音質とマイクの革新を融合したような製品なのか。人は誰しも、経験したことのないものには大きな戸惑いを感じるものではないだろうか。

製品名を知ったのはその後だ。”LCT 640 TS” という名前だという。Lewittにはもともと”LCT 640” という名前の製品があるので、これは万人受けを狙った機能優先のものではなく、トップレベルのレコーディングに向けたものであることも分かった。

Lewittはこれまでも、100数年のマイクの歴史に新たな息吹を吹き込むような”革新”に満ちた開発を行ってきている。新しいLCT 640 TSにもそんな革新が盛り込まれているのだということを確信しないわけにはいかなかった。

 


 

LCT 640 TSについて

 

LCT 640 TSについて

すでに高い評価と完成度を誇っているLCT 640の兄弟機のような型番を持つLCT 640 TS。本体には通常のアウトプットの他に、本体側面に「もう一つの」アウトプットを装備しており、これが通常のマイクとは違った使い方を可能にする。

2枚のダイアフラムを装備したLCT 640 TSは、本体1台のみでステレオレコーディングを可能にする。さらに、本体1台のみでM/Sレコーディングも可能。そして、本体に付属するプラグイン、Polarizerを使用することで、通常はレコーディング時に決定しなくてはいけないマイクの指向性をレコーディング「後」でも変更することが可能になる。

これまでのマイクではなかったこの仕様を見たときに、私たちは印象的な声と曲、そして歌詞で全国の街から街を旅するシンガーソングライター、青谷明日香さんに試してもらいたいと考えた。LCT 640 TSの質の高さは、表現力豊かな青谷氏のボーカルの魅力を余すところなくレコーディングできると思うとともに、背面にあるピアノも一緒にレコーディングできてしまうのではないかと考えたからだ。

会場は渋谷のライブバー、gee-ge. 、会場のグランドピアノを使用し、PAエンジニアの五十嵐建二氏にマイクのセッティングをお願いした。

通常の使用方法でも最高の質感とサウンドを誇るLCT 640 TS。様々な使い方でアーティストのパフォーマンスを抑えたレポートをお届けする。

 


 

1本のLCT 640 TSでピアノを「ステレオ」レコーディング

 

1本のLCT 640 TSでピアノを「ステレオ」レコーディング

LCT 640 TSには2枚のダイアフラムが装備されている。それぞれのダイアフラムは独立したアウトプット端子を持っており、この使い方はユーザーによって様々な発想が生まれることだろう。

私たちはまず、LCT 640 TSを青谷明日香さんの前、ちょうどボーカルマイクを設置するあたりに、それぞれのダイアフラムを左右に向けた形で設置した。ピアニストが左右の耳で感じる広がりを、ピアニストの位置で集音してみようという試みだ。

ムービーの中でピアノの弦に向けて設置している2本のマイク(Lewitt LCT 550)は本ムービーで使用していない。

PIANO REC by LCT 640 TS

1本のLCT 640 TSでボーカルとピアノを「個別に」レコーディング

 

1本のLCT 640 TSでボーカルとピアノを「個別に」レコーディング

 

LCT 640 TSは表裏2枚のダイアフラムを装備している。ピアノの弾き語りをする場合に、一方をボーカリストに向ければ、おのずと反対側はピアノの方向を向く。この特性を生かし、ボーカルと共にピアノ(位置を考えれば、”ボーカリストが最もナチュラルに感じているピアノの音” に近いのではないだろうか)をレコーディングした。ピアノにごくわずかなEQをかけていることを除けば、本トラックではレコーディングしたそのままの状態で使用している。

ムービーの中でピアノの弦に向けて設置している2本のマイク(Lewitt LCT 550)は本ムービーで使用していない。

 

VOCAL & PIANO REC by LCT 640 TS

レコーディング「後」に指向性パターンを変更できる?LCT 640 TSでしか得られない利便性

ここまで何度かご紹介してきた通り、LCT 640 TSはレコーディングの「後」に指向性パターンを変更するという、他のマイクでは決してできない特徴的な機能を持っている。正確に言えばLCT 640 TS本体が持っている機能というよりも、本体に付属するオーディオプラグイン、Polarizer(AAX/AU/VST対応)を録音されたトラックに使うことで、この特別な処理が可能になる。

先のボーカルとピアノを同時に収録したテイクを使用し、録音済みのトラックにPolarizerをインサート。これにより、

  • マイク周囲を全方位を拾うオムニ(無指向)
  • ボーカル向きのワイド・カーディオイド
  • ボーカル向きのカーディオイド
  • ボーカル向きのハイパーカーディオイド
  • ボーカルとピアノ双方に向いた双指向性
  • ピアノ向きハイパーカーディオイド
  • ピアノ向きカーディオイド
  • ピアノ向きワイド・カーディオイド

を、連続的(それぞれの中間セッティングも可)に変化させることができる。以下のビデオでは、連続的に動かしたものに加えて、各指向性に固定した状態のものをそれぞれ掲載している。

ムービーの中でピアノの弦に向けて設置している2本のマイク(Lewitt LCT 550)は本ムービーで使用していない。

LCT 640 TS with Polarizer 曲中でPolarizerを動かしながら再生

LCT 640 TS with Polarizer オムニ(無指向)にて再生

LCT 640 TS with Polarizer ボーカル向きのワイド・カーディオにて再生

LCT 640 TS with Polarizer ボーカル向きのカーディオイドにて再生

LCT 640 TS with Polarizer ボーカル向きのハイパーカーディオイドにて再生

LCT 640 TS with Polarizer ボーカルとピアノ双方に向いた双指向性にて再生

LCT 640 TS with Polarizer ピアノ向きのハイパーカーディオイドにて再生

LCT 640 TS with Polarizer ピアノ向きのカーディオイドにて再生

LCT 640 TS with Polarizer ピアノ向きのワイド・カーディオにて再生

1本のLCT 640 TSでM/Sレコーディング。左右の要素を排除したクリーンなレコーディング

1本のLCT 640 TSでM/Sレコーディング。左右の要素を排除したクリーンなレコーディング

LCT 640 TSを使ったレコーディングでさらに特徴的な要素といえば、1本の本体のみでM/S(Mid/Side)レコーディングが行えることだ。このビデオでは、ピアノ弾き語りを行った場合にマイクの左右から入り込む要素をなるべく排除し、正面のボーカルのみを抽出するような録音を目指した。MSエンコードには録音用のDAW上でWAVESのS1 MS Matrixを使用した。

ピアノにはLewitt LCT 550を2本使用してノイズレスでクリーンなレコーディングを行っている。クリーンに録音できたボーカルとピアノをなじませるため、トラックダウン時に僅かにリバーブ(WAVES Renaissance Reverb)を使用した。

 

VOCAL REC by LCT 640 TS

1本のLCT 640 TSでライブパフォーマンスをM/Sレコーディング

1本のLCT 640 TSでライブパフォーマンスをM/Sレコーディング

1本だけでM/S(Mid/Side)レコーディングが可能なLCT 640 TSを使用することで、ライブバフォーマンスのレコーディングも従来より自然に、クリーンに行うことが可能になる。このビデオでは一般的なライブ環境を想定し、ボーカルにダイナミックマイクのLewitt MTP 550DM、ピアノにLCT 550を使用。PAにてボーカルとピアノそれぞれを拡声し、観客席の位置にLCT 640 TSを設置。M/Sレコーディングを行うことで、自分自身が感じていた会場の広がりなどを後から調整することも可能になる。

LIVE REC by LCT 640 TS

レコーディングを終えて

古典的で良質なサウンド・キャラクターを持ちながら、ダイアフラムとアウトプットを2つづつ装備したLCT 640 TS。その使い方は、これまでとは全く違った新しい使い方の可能性に満ちていて、まさに現代レコーディングのためのマイクと言えるかもしれない。

私たちが例としてご紹介した使い方は、LCT 640 TSのほんの一部の側面でしかない。想像力あふれる人ほど新たな発見や使い方が思いつきそうなマイク、LCT 640 TSをぜひチェックしてほしい。

シンガーソングライター青谷明日香氏、エンジニア五十嵐建二氏へのインタビュー

シンガーソングライター青谷明日香氏、エンジニア五十嵐建二氏へのインタビュー

MI:- 非常に特殊なレコーディングにご協力をいただき、ありがとうございます。お二人は、Lewittというブランドについてはご存知でしたか?

五十嵐:Lewittという名前を知ったのは割と最近のことで、初めて知ったのはgee-ge.によく出演してくれるアーティストさんがMTP 540を持ち込みしたときでした。そのとき聞いた印象がすごく良くて、僕個人は「女性ボーカルに合う音だな」と感じました。その後にgee-ge.でもすぐにMTP 550を導入しました。最初に聞いた瞬間から好印象を感じていましたね。

青谷:私はあまり機材に関しては詳しくないのですが、2016年の初めのイベントで会場に設置してあったものを使用したのが最初の出会いですね。なんとなくですが「このマイクならどの会場でもいい感じになりそう….欲しいな」と思いました(笑)

MI:- 今回の収録のプレイバックを聞いてみてどう感じられましたか?

青谷:録音したものをそのまま再生しているだけなのに、どうしてこんなにいい音なんだろう?と正直びっくりしました。ボーカルとピアノを1本のマイクで録っているのにいい音で….時代は進化しているんだなぁと(笑)

MI:- 五十嵐さんはLCT 640 TSについてどう感じられましたか?

五十嵐:テスト時間があまりなかったのでLCT 640 TSならではのダブル・アウトプットの機能は深く試すことができなかったのですが、一般的なマイクとして使用したときの特性が非常にリアルでナチュラルな音だなと感じました。ピアノはもちろんですが、アコースティックギターにも絶対合うだろうなと思わせる、そんな印象を感じましたね。ドラムのオーバーヘッドにもいいと思います。スピード感や音像が非常にナチュラルで美しいですね。

MI:- 青谷さんはいかがでしたか?

青谷:1本だけでボーカルもピアノもレコーディングするという体験は初めてだったのですが、録ったものを聞いてみて音の良さとバランスの良さにびっくりしました。複数のマイクセッティングをするようなレコーディングは私一人ではなかなかできないけれど、1本だけということなら自分でも様々な場所で試してみたいし、実際にそういうレコーディングも次回はしてみたいなと思いました。

MI:- LCT 640 TSの特徴の1つに、レコーディング「後」に指向性を変更できるというものがあります。ダイアフラムを2枚搭載し、それぞれを独立して出力することならではのものと言えますが、実際に使ってみた感想と、試してみたいシーンなどがあれば教えていただけますか?

 

エンジニア五十嵐建二氏

 

五十嵐:今回行ったピアノの弾き語りのケースは分かりやすくてよい題材でしたね。Polarizerプラグインによる変化も非常に自然で、高い可能性を感じました。例えばLCT 640 TSの周囲をアコースティック楽器のユニットで囲んで収録して、後からバランスを再調整するという使い方も試してみたいですね。とにかく今までの物でできなかったことが可能になるマイクなので、頭を固くせず色々なものに試してみたいです。

MI:- 今回の企画の最後では、ボーカルマイクにダイナミックマイクのMTP 550 DM、ピアノにコンデンサーマイクのLCT 550を2本使って、一般的なライブ構成でPAされたものをオーディエンス位置でLCT 640 TSを使ってMSレコーディングするという形にもご協力いただきました。

五十嵐:MTP 550 DMとLCT 550の組み合わせは音質的にも非常にベストマッチな組み合わせでしたね。オーディエンス位置で録音に使ったLCT 640 TSの音もライブパフォーマンスを極めてナチュラルに収録できていたと思います。

青谷:私はステージのモニターからの返しを聞いていましたが、おかしなクセも全くなく自然体で演奏ができました。

MI:- 青谷さんの楽曲やスタイルのことを考えると、「自然体」で演奏できることは重要なポイントだったのではないでしょうか。

 

シンガーソングライター青谷明日香さん

 

青谷:そうですね。そういうこともあって演奏のしやすさにも繋がったのだと思います。

MI:- 今回のレコーディングを通して、Lewittというブランドにどのようなイメージを持たれましたか?

五十嵐:最初にgee-ge.の出演者さんが持ち込みをされたときから好印象を感じていましたが、今日のレコーディングでLCT 640 TSとPolarizerの組み合わせも試してみて、改めてよいマイクであることと、他のマイクブランドにはない「可能性」も感じさせてくれるブランドだと思います。今回さらに良い印象を感じたことで、ドラム用のマイクセット(編注:DTPシリーズ)なども気になりはじめました。

青谷:録音されたものを聞いてみて、まずは純粋に音がよくてビックリしました。それに加えてPolarizerのようなものが世の中にはあるなんてことを知らなかったので、衝撃でしたね。私は普段ピアノと歌なのでマイクの位置とか距離などはそれほど詳しくないのですが、今回の経験で自分でも色々とやってみたくなって、「Lewittのマイク、ほしいな」と思いました、結局は(笑)

MI:- 「欲しくなるマイク」嬉しいコメントです(笑)ありがとうございます。本日はありがとうございました。

Profile

青谷 明日香(あおや あすか)

青谷 明日香ピアノ弾き語りシンガーソングライター、青谷明日香。

郷愁あふれる田舎の風景から、哀愁ただよう都会のビルの風景まで、様々な主人公の物語を歌い紡ぐ。

FUJI ROCK FESTIVAL等の野外フェスや、お寺、神社、公民館、カフェ、バー、旅館等。演奏場所を選ばないスタイルで、年150本を超える演奏ツアーを敢行。

また、テレビ、ラジオ、CM等への楽曲制作も行う。

笑いあり涙あり、じわじわと感情ゆさぶる楽曲で、全国各地でファンを増やし続けている。

青谷明日香 公式WEBサイト
http://aoyaasuka.com

五十嵐 建二

五十嵐 建二

1971年生まれ福島県出身、1992年studioJIVE入社後、フリーのレコーディングエンジニアを経て2002年渋谷7thFloorでPA業に就き2010年から現在の渋谷gee-ge.でチーフエンジニア務める。


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